WEB SALON
野口ひろみ × 鈴木亨
 第Ⅱ回 「ヒオウギ(ヌバタマ)」
 
 台風15号が首都圏を直撃し、多くの街路樹が倒れたと報じられました。我が家の小さな庭では、高さ40~50㎝のヒオウギが大きく広げた葉に風をまともに受け根元でぽっきり折れていました。
 ヒオウギは7,8月にオレンジ色の花を複数咲かせるアヤメ科の植物です。ヒオウギという植物名は、剣状の葉を扇のように広げている形を檜扇にたとえて呼ばれたようです。
 檜扇は細長い檜の薄板を重ねて綴じた扇で、平安以来の装束を構成する持ちものです。お雛様が持っているアレ、可喜庵の十二単体験に参加された方は着付けが終わって最後に飾りの色糸でぐるぐる巻かれた大きな檜扇を持ったはずです。男性の束帯姿でも帖紙と一緒に懐中しています。
   ヒオウギは、今の季節には実をつけていて生け花の花材ではヌバタマと呼ばれます。ヒオウギを辞書で引くと「漢名、射干」とあり、ヌバタマを引くと「射干玉、ヒオウギの種子」とあります。ふくらんだ子房は熟すと裂けて球形の真っ黒な種子を飛ばすのですが、中から真っ黒な種子が出るその色が印象的だったのでしょう。古事記・万葉で「黒」「夜」などにかかる枕詞として「ぬばたまの」が盛んに使われました。
 「ぬばたまの 黒き御衣を まつぶさに 取り装ひ ・・・・(略)」
『古事記』上巻、大国主神の物語の中にある歌謡です。衣服の色の選択が歌われていて、私の初期の論文のテーマとなったものです。
 そんな訳で私にとってヒオウギは特別なものです。
   植物のヒオウギは、文様としては、多分残っていないと思います。種子だけが歌に歌われてきたのです。
 檜扇は文様に使われています。扇子の一種ではありますが、ひらひらとした扇面の使い方とは違って長い紐と房を持ち、御簾などと同様にいかにも雅な雰囲気で扱われています。
(2011年9月記 野口)


上左:野口宅で咲いたヒオウギ(7月)

上右:倒れてしまったヌバタマ

下:檜扇の文様  


 第Ⅰ回 「アカンサス」
 可喜庵の南側の道路沿いに、植栽の中で一見不似合いと思われるような、いかにも異文化の大きな花が咲いています。アフリカ原産キツネノマゴ科のアカンサスです。
1メートルもの花茎に穂状に花をつけていますが、主役は株を形成している深い切り込のある葉です。
 これを主役というのは、ヨーロッパ文化装飾文様の主役としてずっと使われてきていることです。
    この株状を成す葉の形はそのままギリシャ建築コリント式の柱頭の形になりました。そして、伝統的なものとして、中世の教会の柱などにも使われています。ロココの室内装飾用の布にも、ウィリアム・モリスの壁紙にも、うねるアカンサスの葉は見えます。     私は以前、某国立大学の中庭にある、日比谷公園にある、そして、町田市立博物館にあると気にしながら見ていたことがありました。さすが鈴木さん、西洋文化の伝統的モチーフとなった植物と意識してここに植えたのに違いないと思いました。
(2011年7月 野口)


上左:可喜庵南道路添いのアカンサス

上右:ウィリアム・モリスのデザインに見られるアカンサスの模様

  下:オーナメントのスタイルの中に取り入れられたアカンサス 


パルテノン神殿 1971年撮影(鈴木亨) 
 
 古代ギリシャ建築における様式としてドリア式、イオニア式とコリント式があると西洋建築史で学んだ。アカンサスの葉が象られた装飾的な柱頭を特徴としているのがコリント式。代表的建築物としてはローマのパンテオンが知られている。この建築は半球形のドームの頂部に採光のための開口部があり、ドームの重さを感じさせないのと、そこから落ちてくる光が空間を象徴的。しばし時間を忘れて光の動きを追いながらドーム空間の変化を身体に感じつつ、疲れが癒えていった記憶が蘇ってきます。     ドリア式の代表はギリシャに行ったら必ず訪れるであろうアクロポリスの丘に聳えるパルテノン神殿である。1971年道無き道を登って丘の上に到着、神殿の迫力と大理石の大きさに驚き、丘から見える風景に感動をした。そして、同じ丘にあるエレクテイオンはイオニア式オーダーの代表例。違いが比較できます。この神殿は6人の少女の姿の柱頭が玄関の屋根の重さを支えるように設計されていますが、見たときは不思議な思いをしたのを覚えています。     ウィリアム・モリスといえば、江戸末期の1860年に建設された自邸「レッド・ハウス」が浮かんできます。地元でとれるありきたりの赤レンガを外壁に積んだのでこのように命名されたようです。今は、ナショナル・トラストの所有になって保存されているので見学は可能です。数年前に訪れるチャンスがあったのですが、恥ずかしながら未だ訪れていません。

さて、アカンサスですが、私が物心ついたときには既に花を咲かせていたことを明かしておきます。

(2011年8月 鈴木)


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