季刊誌『かきのたね』で連載している「徒然とおる」から。徒然とおるのまち歩きをおたのしみください。

加藤学園暁秀初等学校エントランス。
Docomomo(Documentation and Conservation of buildings, and neighborhoods of Modern Movement)はモダン・ムーブメントにかかわる建築と環境形成の記録調査および保存のための国際組織で、日本支部は2000年に発足。現存建物・環境の保存対象として、全国に280の建築が選ばれています(2023年6月現在)。そのうち、沼津市内にある2つの建物を見学しました。旧山手通り沿いに代官山ヒルサイドテラスを設計した槇文彦氏の加藤学園暁秀初等学校(1972年)、そして、数多くの名作を残した世界の丹下健三氏の図書印刷沼津工場(1954年)です。

加藤学園plan。
この小学校はアメリカ留学中に欧米の教育改革を知った加藤理事長(当時)が、飛行機で知り合った槇氏に「かべの無い学校」を依頼したのが始まりだそうです。小ぶりな2階建ての校舎ですが、水平性の強い連続した空間と自然光が印象的です。16m角のオープンスペースを4等分し、一般的な教室の2~4倍の広さを確保。最多で4クラスが同居できます。屋根を大梁のみで支えて階高を抑えるなど、子供のスケール、視線の高さを丁寧に探った空間です。

教室と台形の机。
授業風景も拝見。気が散らないか心配でしたが子供たちは集中していました。児童の机は天板が台形で、配置の仕方で円形にも長方形にもアレンジ可能。デザインされた家具と共にオープンスクールを体感できました。
次は、印刷工場です。天井に近い高さで工場内を一望でき、空間の広大さや配管露出の迫力ある天井に目を奪われました。中央の通路部分に鉄筋コンクリート造の柱(耐震改修で補強済み)2本の列で支える大空間は圧巻。機械設備の配置の自由度も高いそうです。
皆さんが日頃モダンだなと思って通り過ぎている建物もひょっとするとDocomomoのひとつかもしれません。残念ながら、工場内部の撮影画像は掲載不可なので、Docomomoの公式サイトからチェックしてみてください。
(Text. 鈴木工務店代表/ 鈴木亨:一級建築士)

図書印刷沼津工場外観。シンプルな形状と構造美で長年の使用に応える。