「お月見」 家をたのしむ

新百合ヶ丘エリアの地域情報誌『MY TOWN』に連載している鈴木亨のコラムback number からお届けします。

「お月見」

京の町屋の中庭には「蹲踞(つくばい)」があります。蹲踞の水面に揺れる空の月と反射する光を愉しむそうです。京都郊外・桂離宮の回遊式庭園には、池を中心に建築群が並び、古書院・二の間の広縁の先に、池に面して竹簀子張りのテラス状スペース、観月のための装置「月見台」があります。こうした地にある桂離宮は、観月のための場所と考えられています。

古都鎌倉の北鎌倉から徒歩5分ほどのところには、紫陽花寺で有名な明月院があります。2013年、寺の向かいの、茅葺の茶室と離れのあるお宅の母屋を建て替えました。家づくりをする上でのご主人の強い要望の一つが、「中秋の名月をじっくりと自宅から鑑賞したい」ということでした。

明月院は地形が谷戸になっており、月はちょうどその谷間を通り抜けていくそうです。谷戸の濃い緑と空に浮かぶ月だけを鑑賞できるという、自然があつらえた舞台設定。そこで、家の2階に広縁のような空間を設け、月を愛でるための露台(バルコニー)を外に張り出しました。ご主人はここに腰かけ、団子と芒飾りを横に、月を肴に猪口に注がれたおいしいお酒を愉しまれるそうです。

鎌倉ほど自然の風景に恵まれていなくとも、バルコニーや縁側に出て部屋の電気を消し、月明かりの下で一杯はいかがでしょうか。

(MY TOWN 2015.9号より 鈴木)

2020年の今、5年前のコラム掲載当時は思いもよらなかったコロナ禍が続いています。旅行や飲み会を以前のように気軽に楽しめない状況ですが、充実した時間を過ごせる家とくらしの大切さを改めて痛感します。鈴木工務店がずっと大切にしている家づくりと、afterコロナの新しい生活様式は、リンクしている部分が多いことにも気づくのでした。「鎌倉 明月谷の家」はこちらからご覧になれます。(畑野)