流行はあとから重なる。暮らしが回る家のつくり方

家づくりを考え始めると、SNSや動画で「今どきの家」を目にする機会が増えます。
洗練された空間、旬の素材、話題の間取り。見ているだけで気分が上がるのも、自然なことです。

一方で、家の価値を決めるのはいまっぽさそのものより、毎日の暮らしが無理なく回ることだと考えています。

その積み重ねの先で、結果として「今に合っている家」「今っぽく見える家」と自然に重なることがある――そんな順番で住まいをつくっていきます。

「要望」を並べる家から、「暮らしの芯」を据える家へ

 

子育てや仕事に追われる時期もあれば、役割を終え、暮らしの重心が静かに変わっていく時期もあります。

世代を問わず設計の軸に置きたいのは、家が生活の負担を増やさないことです。

 

現役世代であれば、朝は分刻み。帰宅後は家事と育児と明日の準備が重なり合います。

リタイア後であれば、家で過ごす時間が増え、「どこに腰を落ち着けるか」「一日のリズムをどうつくるか」といった別の暮らし方に変化していきます。

 

だからこそ、ときめきだけではなく、

・日々の動作が自然につながること

・暮らし方の変化に対応できること

・気持ちが静かに整うこと

を大切にします。

 

「流行」をそのまま形にするのではなく、全体の時間軸を見渡しながら暮らしの芯を捉え、設計判断を行います。

 

be spoken ― ただ聞くのではなく、言葉を住まいにする

 

私たちは、いきなりテイストや間取りから入ることはしません。

まず行うのは、住む人の言葉をほどき、整理することです。

 

やりたいこと。

今つまずいていること。

数年後、どんな時間を家で過ごしたいか。

 

それらを「要望」として受け取って終わりにせず、設計者の視点で暮らしの輪郭に置き換え、空間として組み立てていきます。

 

この入口の工程を、鈴木工務店では「be spoken」と呼び、設計カード暮らしの確認プレゼンへと進めながら、言葉になりきっていない部分まで丁寧に拾い上げていきます。

事例「一弦風月 景色を取りこむL字平面の家」では、「この土地の里山風景を、日々の中にどう置くか」から考えました。建物は南西の庭をL字に囲うような配置にし、物置屋根を緑化して屋根越しに景色を楽しむ。裏側には隣家から距離を開けて北庭を設け、大きな開口と南側の吹抜けで、視線を気にせず室内外の気配がつながるように組み立てています。

 

L字の囲い」「吹抜け」「北窓」——結果だけを見るとSNSでも見かけるような流行りの家にも重なります。けれど出発点は「流行っているから」ではなく、敷地と暮らしの言葉を掘り下げたところにあります。

住まい手の数だけ「いえものがたり」がある。だからこそ、流行の型に寄せず、その家族にとっての自然さをかたちにしていきます。

 

映えより先に、日々が「回る」設計

 

冒頭でもお話ししましたが、設計でまず優先したいのは、映えよりも日々が滞りなく回ることです。

共働きの暮らしは、どこか一か所が詰まるだけで全体が崩れます。

 

たとえば玄関。帰宅して30秒で散らかる場所です。ランドセル、上着、習い事バッグ、宅配、雨具

ここに「受け止める余白(置ける・掛けられる・しまえる)」があるだけで、夜の片付けがぐっと楽になります。

事例「自然にくらす」では、見た目のテイストを先に決めるのではなく、日々の生活スタイルから動線を引き直しました。その結果、玄関やキッチン、仕事部屋を土間続きにすることで、畑からキッチンへそのまま土足で上がれるようにしました。

事例「ふたりの家 シンプルでコンパクトな省エネ住宅」では約9坪角(約18畳)を基準にした二階建ての住まいです。間取りはワンルームに近く、扉はトイレと水回りの2か所だけ。空間を細かく区切らず、必要な場所だけをやわらかく分けています。小さな家は窮屈になりやすいのですが、この家では9坪というスケールを「ちょうど落ち着く大きさ」として整え、居心地のよい広がりをつくりました。さらに北側の視界が開ける敷地条件を読み、北面に広い開口の窓を設けました。

 

昨今「家事ラク動線」や「土間」、「北窓」も、たしかに“流行の型”として語られることがあります。けれどこちらも、流行の型に合わせるのではなく、「住む人にとって平日の夜でも回り続けるかどうか」を判断基準に敷地と暮らしの言葉を掘った結果として、今の時代の空気感とも自然に重なる、そんな住まいになったのです。

 

さいごに 

流行は、暮らしの気分を明るくしてくれます。

一方で人生を支えるのは、静かに、確実に機能し続ける住まいです。

 

鈴木工務店は、「何でもできます」と言う工務店ではありません。

住む人の暮らしを読み解き「こういう考えで、こういう家をつくる」と、姿勢で語る工務店です。

 

流行を追わないのに、結果として時代の気分と重なることがある。

それは、流行の表層をなぞったからではなく、暮らしの芯を掘り当てたとき、暮らし方の変化と自然に噛み合う瞬間があるからだと思っています。

 

家族の時間が少し増えて、日々が少し軽くなる。

そのための「いえものがたり」を、愚直に積み重ねていきます。

 

***

 

鈴木工務店では常時見学できる3つの実例があります。

「家の展示館」「可喜庵」「しごと・ば」。

それぞれの場には思想があり、空気感があります。

 

暮らし方に合わせた設計は、言葉で説明するより、空間に身を置いていただくほうが伝わります。

腰を下ろし、光と風、木のぬくもりを感じてみてください。

この記事の監修者

鈴木 亨

会長

鈴木 亨

Suzuki Toru

一級建築士

大学卒業後にイギリス、フランスで約5年間暮らしました。その間、ERNO GOLDFINGER設計事務所、RSRP設計事務所に勤務しました。欧州と日本の二つの原風景から、残したくなる「普通の家」を創るたのしさを知りました。好きな言葉は「桃李不言 下自成蹊」。