講演サロン 可喜くらし「はっとまちだができるまで」レポートをお届けします

原町田大通りの町田駅前交流拠点「はっとまちだ」がOPENしてもうすぐ1か月。場所柄とユニークな佇まいから、待ち合わせ場所だったり、テイクアウトに立ち寄ったりと賑わいを見せています。

そんな「はっとまちだ」のオープン直前に開催した、誕生ストーリーを語る講演会「はっとまちだができるまで」(3/22土@鈴木工務店・茅葺きの可喜庵)の様子を、ちょっと時間が経ちましたがお届けします。

講演でスピーカーとして登場したのは、町田まちづくり公社の鈴木さんと基本デザインを担当した日建設計の佐野さん、そして実施設計と施工管理の鈴木工務店です。

茅葺の可喜庵で開催された講演サロンの風景。築160年の茅葺の古民家で、先進の3Ⅾ図面で起こしたはっとまちだの誕生ストーリーが語られました

「西の〇〇」ではない、オリジナリティのある施設に

はじめに登壇したのは、本プロジェクトの事業者である町田まちづくり公社の鈴木さん。原町田大通りを含めた周辺のまちづくりプロジェクト全体を把握するキーパーソンです。

はっとまちだの建つ場所には、もともと旧民間交番があって約20年間、道案内とまちの見守り拠点として市民に親しまれてきました。今回の建替えにあたり、もともとの役割にプラスαの機能をもたせ、まちのシンボルになるような施設が模索されたといいます。

「町田って、よく“西の渋谷”とか、西の〇〇って言われがちなんですが、そうではなくて町田らしいオリジナリティのある施設を目指そうと。はっとまちだを拠点に、商店や版画美術館、文学館、シバヒロや芹が谷公園など周辺施設を周遊するようなイメージを描いています」

はっとまちだの床面積はわずか27㎡。そこに3つの機能、1)案内所、2)情報発信、3)軽飲食のテイクアウトとプラスしてちょっと休憩できるポケットパークを備えています。テナントには町田で人気の洋菓子店アンカドが出店。ポケットパークはもともと「町田の泉」があった場所で今はベンチを置いたりオープンエアのワークショップ会場として活用したりと賑わいの一端を担う場所となっています。

3/30オープニング当日の様子。テイクアウトに長い列ができました。

「旧民間交番跡地は実は歩道上にあります。道路上に建物を計画するのは前例がいプロジェクトなんですね」
警察署との協議だったり、交通調査や歩道拡張の社会実験を行ったりと、2018年から様々な準備を重ね、市民との意見交換も経て今日に至ったプロジェクトの経緯を改めて知る機会となりました。

「はっとまちだの目指すところは、ユニークな存在を介して町田を知ってもらうこと。町なかを知る、個人商店の活力を知る、町田の事業者やイベントを知る拠点になることです。ここに出店したい事業者にとってチャレンジショップになればいいなと。そして、今は点在している感のある周辺施設をつなぐ周遊の拠点になることを期待して、今後も運営していきます」

オープン後のポケットパークの様子。

「はっとまちだ」はまちに奥行を出す装置

曲線を描くユニークなフォルムは、四角いビル群が建ち並ぶ周辺建物とは異なるスケールと形で構成されています。「町田の魅力をつなぎ、渦巻くように上昇し新しい風を起こすきっかけに」という思いが形になったもの。基本デザインを担当した日建設計からは、担当の佐野さんが登壇してくれました。

JR町田駅のペデストリアンデッキからの眺め。四角いビル群の空隙に銅葺屋根が光るとんがり帽子のはっとまちだが見えます

「はっとまちだ」には、1)人々とまちの新たな拠りどころ、2)町のシンボル、3)人々の記憶の心象風景になる、ことを求めてデザインが考えられているといいます。実際に、銅板葺きのとんがり帽子のような屋根はJR町田駅前のペデストリアンデッキや原町田大通りの離れたところから眺めても、周囲とはちょっと異なる存在感を放っています。

曲面の多いデザインは3DCADで起こしています。講演では、3DのCAD図面や、内装の天井仕上げに用いた3,000万を超えるイチョウ型の木片の型紙なども見ることが出来ました。

今はまだ、3Dの図面データでそのまま全てを施工することはできません。基本デザイン案に沿って、施工で実施図面に起こしていく作業を介して、実際の現場で形になっていくことを、設計者の視点で説明してくれました。

「どんなに3Dやパースの精度が上がっても、最後は現場での手しごとにかかってくる」と、現場監督や職人の力に言及して、実施設計、施工の鈴木工務店にバトンを渡されました。

3Dと2Dを行き来して、現場で曲面を叶える

鈴木工務店・代表の鈴木は、プロジェクトのはじめの印象は「面白そう」だったといいます。実際には、3Dの図面はそのままでは施工図にはならないため、鈴木工務店の設計の山内が2Dに起こすために赤入れをしながら2D図面に描き起こしていったわけで、その過程もなかなかの作業量と検討の連続でした。

施工中の様子。とんがり帽子状の屋根、LVLの骨組みを下から見上げたところ。

施工に入ってからも、検討や工夫の積み重ねです。3D図面では曲面もミリ単位で指定できますが、現場ではそうはいきません。監督の志村がそうした現場の様子を写真と一緒に解説していきました。巨大な帽子のような屋根を支えるLVL(単板積層材)はプレカットで正確に切り出せますが、下地や銅板葺の仕上げを曲面に貼っていくのは手しごとです。さらに、プレカット部材と現場打ちの曲面の多いコンクリート基礎が精度よく納まるか。帽子のような屋根内部の曲面仕上げにイチョウ型木片3,000枚をどう貼るのか、などなど。みなで知恵を出し合って形にしていきました。

約3000枚の銀杏型木片を天井仕上げに貼っている様子。

会場には、プレカットのLVLサンプルやイチョウ型の木片サンプル、型紙も展示。現場写真と一緒に誕生までの「裏話」を紹介することで、「ものづくり」や「3Dデザインと手しごとのおもしろさ」を感じてもらい、「はっとまちだ」により愛着をもってもらえるのでは、とも期待しています。

参加者からの声。「コミュニケーションがまちをつくっていくんだな」

参加者はおかげさまで定員の20名に達しました。ここからは、参加してくださった方々の感想の一部を紹介します。「中にはいってみたい」「総工費を聞いて安いと思った」「大通りが引き締まった」「ソフトに期待したい」「周辺に木陰が欲しい」「周辺のまちなみに良い影響を与えていってほしい」「ものづくりの背景が分かった」「(今回の)三者がみなで力を合わせた結晶」「建物を見ると誕生のストーリーが思い出せる」「町田の力、人、技術があるというこを感じる」「老舗商店街への動線も考えて活性化してあげてほしい」「まわりにもう少し座れる場所があるといい」「イベントも町田の事業者や店、活動の発信で盛り上げてほしい」「面白い形の建物ができた印象。関わった人々の工夫を感じた」「関わった人たちが嬉しそうで、もっともっと話したいのでは」「建ててから(運営)が大変だろう」「人、コミュニケーションがまちをつくっていくんだなと感じた」

ご参加のみなさま、ありがとうございました!そして、はっとまちだのこれからに期待です!