徒然とおる 『広さは面積だけではない』~かきのたねvol.63 秋号より

猛暑の中、東京・小金井の江戸東京たてもの園を訪ねました。歴史的建造物を移築・復元し保存する園内で、今回は西ゾーンを見学しました。
まずは、1942年築の憧れの住宅、前川國男邸。

前川國男邸 外観。

北側の大谷石の塀と門を入り、小ぶりな玄関から扉を押すと、切妻の大屋根の下に吹抜けの居間が現れます。南面は大きなガラス窓で庭へとつながり、振り返れば北の庭も目に入ります。決して大きな家ではありませんが、天井の高さ、光、視線の抜け、庭との関係によって、実際の床面積以上の豊かさを感じます。「広さとは面積だけではない」と教えてくれる住宅です。

前川國男邸 内観。

もう一つは、堀口捨己設計、1925年築の小出邸。ヨーロッパから帰国した堀口が、当時のオランダ建築の新しい造形を取り入れながら、日本の伝統的な住まい方と見事に融合させています。建物を敷地に対して少し振って、斜めに配置することで、庭の見え方や光の入り方にも変化を生み出しています。

堀口捨巳設計 小出邸 外観。

堀口捨巳設計 小出邸 和室。

二つの住宅に共通するのは、設備や流行だけに豊かさを求めていないことです。光、風、天井の高さ、素材、庭、そして人が集まる場所。そこには住む人の身体感覚を大切にした、建築家の細やかなまなざしがあります。家づくりの基本を丁寧に考えることが、何十年経っても魅力を失わない住まいにつながるのでしょう。
ほかにも、全室洋間という当時としては新しい暮らしを提案した大川邸や、現在はカフェとして親しまれるデ・ラランデ邸があります。100年を超えて残る住宅を歩きながら、これからの家づくりを考える。便利さや新しさだけでは測れない「暮らしの豊かさ」「温故知新」を、改めて考えさせられた一日でした。

この記事の著者

鈴木 亨

会長

鈴木 亨

Suzuki Toru

一級建築士

大学卒業後にイギリス、フランスで約5年間暮らしました。その間、ERNO GOLDFINGER設計事務所、RSRP設計事務所に勤務しました。欧州と日本の二つの原風景から、残したくなる「普通の家」を創るたのしさを知りました。好きな言葉は「桃李不言 下自成蹊」。