傾斜地に建つ・かきのたねvol.41より

原町田の『器 ももふく』店主の住まいを訪ねました。無垢材と明快なプランの家は、手になじんだ器のように時を刻んでいます。

混構造とシンプルなプラン

約20年前にご主人と家づくりを決行した、和食器の専門店『器ももふく』店主の田辺玲子さん。もともと住宅設計をしていた田辺さんは、家の構想を共有できる設計施工のエ務店を探していたそう。取得済みだった高低差約6mの傾斜地にRC(鉄筋コンクリート)造を施工できることも条件にあり、鈴木工務店に依頼したといいます。

田辺邸は崖を背負うように建っています。接道レベルから2階分の高さまで届く土留めの擁壁を兼ねたRC造の地下階と、木造の最上階からなる3層+ロフトの混構造です。各階はワンルームの明快なプラン。接道している地下2階は玄関ホールで、当初は器店として使っていました。店舗を原町田に構えてからは、楽器を奏でたり、ご主人がサーフボードを手入れしたりする多目的室です。地下1階には寝室と書斎コーナー、バスルームを配置。道路から見れば地上2階相当で、南窓もあり採光は十分です。最上階はロフトと勾配天井をもつLDK。木造の柱梁を現し、南北に窓が開く開放的な空間で、傾斜地の最上部に設けた北庭にも直接出られます。

無垢材の存在感を味わう

「無垢材=ナチュラルというより、存在感が好きですね」と田辺さん。建物を様式やテイストで飾らなくとも、木、コンクリート、鉄といった骨太な素材からなる空間は、築20年を経てなお力強く、ご夫婦が選んだ家具や食器などの道具と暮らしが映える器であり続けています。

また、今もインテリアの相談を受ける田辺さんは、「何々風の家ということより、まずは自分たちがどういう暮らしをしたいのかを整理すること。たとえば子育て世代であっても子供に寄りすぎるのではなく、家と自分たちの一生を考えた暮らしのイメージを大切に」とも。ちょうど「食材に合う器が料理を引き立たせる」ように、家という器が済む人の暮らしに大きく影響することを改めて感じるのでした。(まちびと・2020年春号より。取材・Vision Design)

北庭をたのしむ

2020年夏、外装と北庭の修繕を行った田辺邸。夏の日よけに活躍するパーゴラを新設し、ガーデン用品を収納する特注の物置もつくりました。一部、草花も植え替えて春を待ちます。

家の中も外も、マイペースで手を入れ整えてきた田辺邸。シンプルだけれど存在感のある傾斜地の家(2001年竣工当時)は、こちらからもご覧いただけます。竣工当時と修繕後の外観や、玄関ホール(下写真)の使い方など、暮らしの変化にともなう住まいの変化の様子が分かります。

※田辺さんの器店は『器 ももふく』で検索