暮らしのスタイル「しまう、整える、育っていく」住宅街の中で、季節と天気と暮らす家--かきのたねvol.62夏号より

収納から考える住まい

「いろいろな制約がある中で、どこを広くする代わりに、どこを狭くするか。侃々諤々の議論を毎週のようにしました」。そう言って当時を思い出すように笑い合うTさんご夫婦と娘さんが暮らす住まいは、閑静な住宅街の一画に佇んでいます。

敷地は道路よりも高い位置にあるため、北側の道路から見上げたときに、建物が圧迫感を与えないよう、道路側の建物の一部は高さを抑えて計画しました。一方で南側には、庭を望めるよう大きな窓を設け、明るく開放的な空間に。限られた条件の中に、様々な工夫が凝らされています。

南側からの光が差す明るくて開放的なリビング・ダイニング。住宅街なので周りの視線が気になる時に、1階の窓のハニカムスクリーンを閉めても、吹抜けを通して2階の窓からの光が差し込むので十分明るい。

そんな中でも奥様がとくにこだわり抜いたのが「収納」です。「家全体の大きさにも制約があったので、まず、自分たちの持ち物を確認して、どの収納に何をいれるのか、全部紙に寸法を書き出して、綿密に考えました」。そして「とにかく全部収納したかった」と奥様。その言葉通り、家の中の物はそれぞれの場所にきちんと収まり、すっきりと整えられていました。

左/紅茶の缶から寿司桶の高さまで全部計ってぴったり入る大きさに造作してもらったキッチンの引き出し。リビングの収納では、コードレス掃除機をしまうために、充電用のコンセントまで中に作ったという徹底ぶり。 右/飾り棚もあまりなくすっきりとした内装だが、玄関には季節のものを飾れるスペースがある。取材の日は、ちょうど庭に咲いていたという、あざやかな紫陽花の切り花が出迎えてくれた。

そんな住まいも、いつの間にかもう築6年。けれど、海外赴任をされていたこともあり、実際に住まわれた期間は、赴任の前後をあわせて3年ほどです。当時、鈴木工務店に依頼した理由のひとつも、まさにその海外赴任。全館空調のOMXに対応している鈴木工務店でなら、留守の間でも湿気で傷まない家にできると思ったからです。

実際に、赴任中もOMXを24時間稼働していたところ、傷むことはなく、帰国してからも快適に暮らせているといいます。「全館空調なので、冷房の風が直接あたらずに涼しく感じます。湿度も低く維持されているのもあって、遊びに来た人からはよく『まるで高原のようだね』と言われます。それぐらい空気がさわやかなんです」とご主人。それから奥様は「どこか泊まりに行ってもやっぱり我が家がいいねとなってしまうので困っています。でも、あまり言うと自慢みたいになってしまいますね」と微笑みます。

その控えめな言葉から、この住まいでの暮らしの心地よさが、垣間見れたような気がしました。

家族とともに育てていく

住まいが完成して、初めの印象が“工芸品みたい”だったという奥様。「なんだか住むのがもったいないな、お手入れできるかしら」と思ったといいます。ご主人は「祖父母が来た時『今もこんなおうち建てられる大工さんいるのね』と褒めてくれて」。

登りやすいよう、緩やかにしたという階段。ご主人は手の込んだ作りが気に入っていて、リビングから階段を眺めるのが好きなのだとか。

そんな“工芸品みたい”な住まいも、今ではだんだん暮らしに馴染んできました。日々、家族3人で過ごすことが多いのは、ダイニングやリビング。テーブルを囲む時には、庭が大切な共通の話題です。

庭は、防犯のためにも塀で完全に囲いすぎない替わりに、ちょっとした目隠しにもなるよう植物を増やしている途中。家族3人で次は何を植えようかと相談したりも。

ジューンベリーの実がなると「今日はこんな鳥がやってきたよ」と報告し合ったり、梅の実がなると、ジャムを作ったり。今年はブルーベリーも植えたそうで、これからの楽しみ。そして時には、週末に庭の芝を刈ろうか、台風がくるから剪定しておこうかなどと相談したりもします。

そんな風に、以前よりも天気や季節を気にしながら暮らすようになったのだとか。「この間はお天気のいい日に、床のワックスがけもしました。やっぱり家に手をかける時間が必要ですね。でも、もちろんリラックスする時間も楽しんでいます」。夜は家族3人でゆっくり食事をとり、リビングにあるオーディオセットで音楽を聴くことも。そんな何気ない過ごし方も、家族の大切な時間です。

娘さんは自分の部屋のロフトを秘密基地のように遊んでいる。

廊下やちょっとした書斎スペースにも、植栽の見える窓を。書斎の窓からは北側の優しい光が差し込む。

家の中も、まだまだしたいことがたくさんあるそうで「赴任先で買ってきた絵を飾ったり、家具も増やしていきたいです。でもそんなに急ぐことでもないので、少しずつ楽しんでいきたい」と想像を膨らませていました。

娘さんが小学生なのもあり、今はまだまだ家族3人で過ごす時間が多くあります。これから家族のライフスタイルが変わっていっても、この家で時を重ねていくことで「忙しい毎日でも、ここに帰れば家族みんなが心も体もゆっくり休めることができて、安心して暮らせるような、そんなイメージを大切にしています」。
安心して暮らせる場所。Tさんご家族は、そんな居心地のいい場所を、日々、暮らしの中で育てている真っ最中なのです。

TIPS

◆必要なスペースの優先順位を考える

予算や広さに制約がある中で、どこを広くして、その分どこを削るのか。優先順位を一般論ではなく、自分たち仕様で考えておくこと。

◆玄関土間を広くする

玄関土間が広いと、出入りするときに時間がかからず、靴もいっぱいにならずに済む。併せて玄関ドアの前の庇を大きくしておくと、雨の日でも濡れずに傘を畳めたり、台風の時に鉢植えを避難できたりと何かと便利。

◆畳を小上がりにするか、独立にするかは用途を考えてから

最近、リビングに小上がりの畳をつける家が多くあるが、Tさんはあえて独立した畳部屋を選択。風邪を引いた時、来客者が泊まる時、ご主人のフィットネスをする時、アイロン掛けをする時など様々に活用している。

【建築概要】

施工:2020年
敷地面積:194.35㎡(58.79坪)
延床面積:108.86㎡(32.93坪)
photo:Chika Suzuki
text:鈴木工務店

竣工当初の写真はこちらのWorksの「つつむ つながる」でご覧になれます。

この記事の著者

土井 由音

広報

土井 由音

Yune Doi

図面の先にある、心地よい暮らしをお伝えします。