暮らしのスタイル「ひとりの時間も、 ふたりの時間も」緑に囲まれて暮らす、リノベから2年目の住まい--かきのたねvol.63秋号より

ふたりのこだわりを、ひとつの家に

東京の湾岸エリアに暮らす中で「都会暮らしはもういいから、緑あふれる場所に行きたい」と考えたZさんご夫婦が、結婚を機に思い描き始めた一軒家での暮らし。その中でたまたま出会ったのが、緑に囲まれ、家と家との間にもゆとりのあるこの住まいでした。そのまわりとの距離感にも惹かれた一方で、間取りは、これからのふたりのライフスタイルには合わず、リノベーションを決めました。
中国出身のおふたりは、それぞれ就職や進学のため日本へ。ご主人は幼い頃、広い土地に建つ一軒家で、畑や果樹、動物たちに囲まれて育ったそうです。当時は都会の暮らしに憧れていたものの、日本で長く暮らすうちに、やっぱり昔のような生活に戻りたい気持ちに。一方、奥様は都会育ちで、自称“アニオタ”。日本のアニメに登場する一軒家に憧れがあったのだとか。
そんな経緯から、広い庭に囲まれた洋風の一軒家をリノベーションしたこの住まいに、ご夫婦と愛犬一匹で暮らし始めました。玄関を入ると、広いホールを挟んでご主人のオフィスとLDKがあり、2階には奥様のオフィス、それぞれの寝室や和室、ランドリールーム、浴室があります。在宅ワークの多いおふたりが、それぞれの仕事や生活のリズムに合わせて、居場所を持てる間取りです。

絵画や家具、照明、家電、食器などの小物は、奥様のこだわりのものが多い。海外へ撮影旅行に行った時に、アンティークのカップを買うことも。

浴室はご主人がデザイン。

ご夫婦のいえづくりは“こだわりと検索と戦い”の連続でした。エンジニアのご主人は断熱・気密・換気など、性能や仕組みを重視。一方、写真家としても活動する奥様は、素材の質感や色の調和、天井高や梁の見え方など、空間の美しさを大切にしていました。そんな中、ご主人が検索を重ね、おふたりが納得する性能とデザイン性を備えた木製窓を見つけます。実は、鈴木工務店を見つけたのもご主人だそうで、奥様曰く“検索の達人”なのだとか。ただ、その木製窓はとても高価だったため、予算の配分上、全部ではなく、LDKの大きな窓4枚のみにすることに。ほかにも和室を残すか否か、床をカーペットにするか無垢にするかなど、こだわりの応酬はさまざま。「戦って負けてしまった」と笑うご主人の言葉からも、ふたりで何度も話し合いながら、この家をつくってきたことが伝わってきました。

ご主人こだわりのランドリールーム。換気システムがしっかりしているので室内干しで十分乾く。奥様の寝室と繋がっているため、洗濯して干して畳むという家事動線がとてもスムーズ。

戦いの末に残した和室。左側の引戸の向こうは奥様の寝室になっている。

ふたりの時間が重なる場所

住み始めてから約2年。おふたりの暮らしは、以前とはずいぶん変わりました。「こっちに引っ越してきてから90%ぐらいは家にいて、旅館とかはほぼいかなくなった」「和室の雰囲気もいいしね」と、このお住まいで過ごす時間を楽しんでいる様子。誕生日には料理人を家に呼び、料理を作ってもらったことも。これも“検索の達人”のご主人が調べてくれたのだとか。

リビングの床と、キッチンの壁のタイル(テレコッタ)の三角模様は、タイルの角を切って、それぞれ交換して貼ったもの。遊び心を大切にするご夫婦らしいポイント。

「デートの誘い場所が、昔は美味しいレストランとか、恵比寿、六本木とかだったんですけど、最近は『ホームセンター行かない?』って言ってくるんです。おもしろいし、花は好きだからいいんだけどね」と奥様。いまでは花のほかにも、苺、胡瓜、ゴーヤ、南瓜、西瓜、葡萄、豆類などなど…。たくさんの植物を育てています。
在宅ワークが重なる日もありますが、オフィスが1階と2階に分かれていることで、お互いに干渉しすぎず過ごせています。ご主人は平日も休日も早寝早起き。朝に庭の手入れをしてからコーヒーを一杯。都会ではできなかったルーティンです。一方、奥様は朝はゆっくりで、連休には海外へ撮影旅行にも。

ダイニングからみた玄関。奥にあるのはご主人のオフィス。

それぞれのオフィスは、ガラス戸の向こうや吹抜けの上にあるため、別々の場所でも気配を感じられる。

そんなおふたりの合流地点はダイニングスペース。一緒に食事をしたり、コーヒーを飲んだり、休憩時間を楽しみます。
「ほんとは朝に庭のデッキで一緒にコーヒーを楽しみたいんだけどね。冬の朝が一番いいんだよ」とご主人。それでも、過ごしやすい秋になると、真っ赤な紅葉に囲まれた庭に出て、手づくりピザを窯で焼いたり、BBQを一緒に楽しむ回数も増えるそうです。

庭の植物たちは、気がついたら乾燥していることも。そんな時は、奥様がドライフラワーとして束ね、部屋中に飾っている。

最後に、思い描いていた暮らしは実現できているか尋ねると、答えは「それ以上です」。それでも、この家でやってみたいことはまだまだあって、庭には池や小さな滝をつくり、地下階もいつか改装したいのだとか。住み始めて2年。思い描いていた以上の暮らしを楽しみながら、この家での時間はこれからも、おふたりらしく、少しずつ変わっていくのでしょう。

TIPS

◆ライフスタイルに合わせた動線を

Zさんの奥様の場合、仕事の合間に洗濯、休憩時間は料理と、わけて行っているので、無理に水まわりをひとまとめにせず、ランドリーと浴室は奥様のオフィスがある2階に、キッチンは、買物後にすぐにパントリーに食材を運べるよう1階にした。

◆室内干しは、換気システムの徹底を

室内干しは、においや乾きにくさが難点だが、換気システムを徹底すると、むしろ天気を気にせず早く乾かせる。

◆いいものは残す

この住まいでは、吹抜けにしたことでなくなってしまったアーチ天井のデザインを大工の手仕事で復活させたり、既存の木製手摺を加工して物干し竿にしている。また、扉も既存のものを微調整し全て再利用、和室は手を加えずそのまま残すことで、家の記憶を継承している。

【建築概要】

施工:2024年
敷地面積:490.47㎡(148.36坪)
延床面積:296.51㎡(89.69坪)
photo:Chika Suzuki
text:鈴木工務店

この記事の著者

土井 由音

広報

土井 由音

Yune Doi

図面の先にある、心地よい暮らしをお伝えします。