徒然とおる 『SRC造、木造、RC造 めぐり』~かきのたねvol.62 夏号より

駒澤大学内にある耕雲館から今回のまち歩きはスタートし、向井潤吉アトリエ館、そして駒沢給水塔という、用途も時代も異なる3つの建築巡りをしました。
菅原榮蔵が設計した耕雲館 (1928)は関東大震災後の復興期に建てられたSRC造の旧図書館閲覧室です。当時は震災後ということもあり、特に耐震性を求められた時代で、立面は屏風を立てたような折板構造によって大空間と八角形のスカイライトを実現しています。外壁はスクラッチタイル、内装にはテラコッタが使われ、木製ベンチも配されたライト風(式)建築です。現存するビヤホールの中で日本最古の「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」の設計者でもあります。

耕雲館。現在は禅文化歴史博物館として使用されている。

耕雲館の中央にある八角形のスカイライト。

株式会社佐藤秀の創設者が設計施工した向井潤吉アトリエ館(1962)は、大屋根の切妻屋根がかかる家です。木造軸組で、木の丸い部分を残した面皮柱や古材による柱と梁組みで力強い室内空間になっています。木が本来持つ生命力や時間の積層は、民家を描き続けた画家・向井潤吉のこころと重なっているような気持ちがしました。緑に覆われた庭は心地良い空間でした。

向井潤吉アトリエ館(世田谷美術館分館)

最後の駒沢給水塔(1924)はRC造で、高さ30m、内径14mの円筒が2つ並んで立っており、ここから渋谷へ給水していたそうです。都市インフラでありながら建築的な美しさを備えた土木建築遺産です。本来は巨大な水槽にすぎない構造物ですが、技師・中島鋭治は、10本の付柱の頂部に照明を設けました。そのかわいらしく立ち並ぶ様は、まるで王冠のよう。機能だけではなく、人々の暮らしや風景への配慮が感じられます。対して、川の水を汲み上げるために併設されたポンプ室は格納庫を思わせる佇まいでした。

駒沢給水塔。塔の上には照明が並んでいるのが見える。

素材も用途も異なりますが、どの建築にも「構造が美しさを生み出している」という共通点があります。時代ごとの技術や設計者の思いを階間見ることができました。

この記事の著者

鈴木 亨

会長

鈴木 亨

Suzuki Toru

一級建築士

大学卒業後にイギリス、フランスで約5年間暮らしました。その間、ERNO GOLDFINGER設計事務所、RSRP設計事務所に勤務しました。欧州と日本の二つの原風景から、残したくなる「普通の家」を創るたのしさを知りました。好きな言葉は「桃李不言 下自成蹊」。